くわ》しいことはもう忘れちまったが、何でも「思いつきは鳥渡《ちょっと》面白いが、いろいろ幼稚で成っていない。もっと勉強しろ」というようなことが書いてあったように思う。これを読んで、よし大いに勉強してこの次は入選するぞと興奮したことであった。後年「無線と実験」で乞《こ》われるままに、これを誌上に送ったが、いくぶん手を入れ、また落選作と分っては極《きま》りがわるいので題名を『壊れたバリコン』と変えた次第であるが、今から考えるとまことに相済《あいす》まぬことをしたと思う。
 さて最後に据えてある『地球盗難』は、昭和十一年「ラヂオ科学」誌上に連載された科学小説であって、僕の書いたものでは最長篇であり、且つは最近の作である。それは宇宙の神秘を取扱ったり、妙な生物が他の遊星から飛来《ひらい》することなどは『崩れる鬼影』にちょっと似ているが、作者の覘《ねら》ったところはその題名に示す『地球盗難』なる不可思議なる四文字に籠っているのであって、自分としても相当苦労をした作品であるが、尚、これを書き上げるについて、柴田|寛《ゆたか》氏の激励《げきれい》と、友人|千田実画伯《せんだみのるがはく》こと西山|千《せん》君の卓越《たくえつ》した科学小説|挿絵《さしえ》と、原稿|催促《さいそく》に千万の苦労を懸けた林誠君の辛抱強さとがなかりせば、到底完成しなかったであろう。本書上梓に当って篤《あつ》くお礼を申上げたい。

 さて、これから僕は、いよいよ腰を据えて科学小説を書くつもりである。ではどんなものを書くか。その答はここには書かないで、小説の形にした上で諸君に答えようと思う。
 科学小説を大いに隆盛《りゅうせい》にしたい。僕一人の力だけでは到底どうなるわけのものではない。有力にして天分有る隠れたる作家が多数現われ、そこに科学小説壇というものを作り、お互いに研究し合い、刺戟し合いしてこそ、始めて意義あり且つ甚大《じんだい》なる発展が期待されるのである。僕はこの拙著《せっちょ》を公《おおやけ》にするに際して、この事を敢えて本格的科学者の一団に向い、声を大きくして叫びたく思う者である。
   世田谷竹陵亭に於て



底本:「海野十三全集 別巻1 評論・ノンフィクション」三一書房
   1991(平成3)年10月15日第1版第1刷発行
初出:「地球盗難」ラヂオ科学社
   1937(昭和12)年4月5日第1版第1刷発行
※「海野十三全集 別巻2」(三一書房)の「作品目録」では、「三角形の秘密」は「三角形の恐怖」となっていますが、底本のままとしました。
入力:田中哲郎
校正:土屋隆
2005年6月14日作成
2008年5月13日修正
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