ドン助の行方が気になるので、しきりにそのあたりを探しまわってたが、何処を探してみてもいない。博士はドン助が木函《きばこ》ごと○○獣に噛られてしまったといったが、始めはそれが冗談と思っていたのに、だんだん冗談ではないことが敬二に分ってきた。
「もし、貴女《あなた》はなぜその木屑をメリケン袋の中にぎゅうぎゅうつめこんでいるんですか」
と、黒眼鏡の外国婦人に声をかけた。
すると、かの外国婦人は、怒ったような顔を敬二の方に向けると、
「あなた、分りませんか。この木屑の中に、あなたの友達の身体が粉々になってありますのです。おお、可哀《かわい》そうな人であります。わたくし、こうして置いて、後で手篤《てあつ》く葬《ほうむ》ってやります。たいへんたいへん、気の毒な人です。みな、あの○○獣のせいです」
「すると、ドン助は○○獣に殺されて、身体はこの木屑と一緒に粉々になっているというのですか。本当ですか、それは――」
「本当です。わたくし、あなたたちのように嘘つきません」
「僕だって嘘なんかつきやしない」
と、敬二少年は腹を立ててみたが、とにかくもしそれが本当だとすると、この外国婦人は親切なひとだと思われる。
「貴女は一体どういう身分の方なんですか」
と、敬二は彼女に聞きたいと思っていたことを訊《たず》ねてみた。
「わたくしはメアリー・クリスという英国人です。タイムスという新聞社の特派員です。この○○獣の事件なかなか面白い、わたくし、本国へ通信をどんどん送っています。いや本国だけではない、世界中へ送っています」
「ははあ、女流新聞記者なのですか」
敬二は始めて合点《がてん》がいったという顔をした。
○○獣|生擒《いけどり》
そのとき、大勢の群衆がうわーっと鬨《とき》の声をあげた。
「騒《さわ》ぐな騒ぐな」
と、蟹寺博士は群衆を一生懸命に制しているが、なかなか鎮《しず》まらない。
「さあ、セメントを入れろ!」
消防隊員は総出《そうで》でもって、穴の中にしきりにセメントの溶かしたものを注《つ》ぎいれている。もちろんそれは蟹寺博士の指図《さしず》によるものであった。
「どうしたんです」
と、敬二が見物人に聞くと、
「いや、とうとう○○獣が穴の中に墜《お》ちたんだとよ」
「えっ、○○獣が……」
敬二が愕《おどろ》いているうちにも、セメントは後から後へと流しこま
前へ
次へ
全24ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング