ん》が、急にひっこんで、その代りドン助はバネ人形のように起きあがった。そこは狭《せま》い狭い箱の中だった。彼はいやというほど頭をぶっつけて、とうとう本当に眼をさました。
「やっ、貴様か。貴様はなんというひどい――」大口《おおぐち》開いてつかみかかってくるドン助を、敬二はあわててつきとばした。ドン助は赤ん坊のように、どたんと倒れた。
 敬二が早口《はやくち》に、あの黒眼鏡のローラがいまそこまで追っかけてきていることを告げると、さすがのドン助もこれが大いに効《き》いたと見え、彼はたちまち頭をかかえて羊のごとくおとなしくなってしまった。
「そうか。そいつは弱ったな」
 敬二はこれまでの話を、手みじかに話してやった。それを聞いていたドン助は、
「いや、俺が慾ばりすぎて失敗したんだ。でもあの外国の女には第一番に話をしたんだから、あれは二十円の値打はあると思うよ。第二番以後は二円ずつ安くして、ニュースを売ってやったのだ。あれから皆で四、五十円も儲かったよ。だからつい呑《の》みすぎちまったんだ。わるく思うなよ」あの出鱈目《でたらめ》ニュースを、そんなに幾軒もの新聞に売ったと聞いて、敬二はドン助の心臓のつよさにおどろいた。
「へへえ、支配人が俺をとっちめるといってたかい。そいつは困ったな。あいつは柔道四段のゴロツキあがりだから、いま見つかりゃ肋骨《ろっこつ》の一本二本は折られると覚悟しなきゃならない。そいつは痛いし――」と腕をこまねいて、
「どうも弱った。仕方がない。夜になるまでここに隠れていよう」ドン助はごろりと音をたてて横になった。すると間もなく平和な鼾が聞えてきた。すっかりアルコールの擒《とりこ》となった彼の身体は、まだまだねむりをとらなければ足りないのであった。


   ○○獣《マルマルじゅう》の再来


 恐ろしいビルディング崩壊が再び始まったのはその日の午後であった。
 あれよあれよと見る間に、例のカリカリカリという怪音をあげて、東京ホテルの裏に立っている大きな自動車のガレージを噛《かじ》りはじめた。
 敬二少年が外に走りでたときは、もはやガレージの横の壁が、まるで達磨《だるま》を横にしたように噛《か》みとられ、そして中にある修理中の自動車がガリガリやられているところだった。じっと見ていると、それらの壁や自動車が、音をたてて自然に消えてゆくとしか見えないのであった。も
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