「破りました。ニュースを二十円で、ワタクシ買いました。外《ほか》の人にきっと話すことなりません、約束しました。ところが今日の新聞、みな○○獣のこと書いています。大々的に書いています。それでもあなた大嘘つきありませんか」
「ま、待って下さい。ぼ、僕はなにも知らないのです。喋《しゃべ》ったとすれば、ドン助が喋ったのかもしれません。僕は喋らない」
「ドン助? ああ、あの太った人ですね。ドン助どこにいます。ワタクシ会います。彼にきびしく云うことあります。すぐつれて来てください」
「ドン助をですか。わーッ」またドン助だ。ドン助は一体どこに行ってしまったんだろう。敬二はローラというその外国婦人の前を逃げるようにしてすりぬけた。ローラは拳《こぶし》をふりあげながら、あとから追いかけてくる。捉《つかま》ってはたいへんと、敬二は、ビルの裏へにげこんだ。
でもローラの金切り声はおいかけてくる。
さあ、そうなると逃げるところがなくなった。といって捉ってはどんな目にあうかもしれない。そのとき敬二はいい隠れ場所をみつけた。それは外国人がホテルへついて荷物を大きな荷造りの箱から出したその空箱《あきばこ》がいくつも重ねてある場所であった。敬二はそのうちで一番大きい箱に見当をつけて、腕をすりむくのも構《かま》わず、夢中になって空箱のなかにとびこんだ。
そのとき彼は、箱の奥に、なんだかグニャリとするものにつきあたってハッとした。
ドン助の行方
空き箱の奥のグニャリとするものにつきあたって、敬二少年は心臓がつぶれるほどおどろいた。何だろうと思って目をみはったとき「ごーッ」という音が耳に入った。大きな鼾《いびき》であった。
「なんだ、こんなところに寝ているんだもの、どこを探したって分る筈がない」空き箱の中に窮屈《きゅうくつ》そうに、身体を、縮《ちぢ》めて寝こんでいるのは、行方不明になったドン助だった。酒の香《におい》が箱のなかにプンプンにおっていた。
敬二はドン助をそっと揺《ゆ》りおこした。ところがそんなことで目のさめるような御当人《ごとうにん》ではなかった。といって箱のなかであるから、あまり音をたてては、ローラに知れる。そこで一策《いっさく》をかんがえて、ドン助のはりきった太《ふと》ももをギューッとつねってやった。
「ああ、あいてて……」膨《ふく》れかけた鼻提灯《はなちょうち
前へ
次へ
全24ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング