しょうか。人間よりもっと豪い生物が必ずいるに遺いないのです。そういう生物が、いつわれわれの棲《す》んでいる地球へやって来ないとも限らない。彼らは、その勝《すぐ》れた頭脳でもって、人間たちを立ち処《どころ》に征服してしまうかもしれない。丁度山の奥に蟻《あり》の一族が棲んでいて、天下に俺たちぐらい豪いものはなかろうと思っていると、そこへ突然|狩人《かりゅうど》が現れ、蟻は愕《おどろ》くひまもなく、人間の足の裏に踏みつけられ、皆死んでしまったなどというのと同じことです。人間もひとりで豪がっていると、今に思いがけなくこの哀《あわ》れな蟻のような愕きにあうことでしょう。みなさん、分りましたか」
教室に並んでいた生徒たちは、ハイ先生、分りましたと手をあげた。敬二も手をあげたことはあげたんだが、彼は先生の話がよくのみこめなかった。ただ彼は、人間よりずっと豪い生物がいる筈だと聞かされて、非常に恐ろしくなった。そしてなんとなく原庭先生が、地球人間ではなく、地球人間より豪い他の天体の生物が、ひそかに原庭先生に化けて教壇の上から敬二たちを睨《にら》んでいるように思えて、急に身体がガタガタふるえてきたことを覚えている。
先生のお話になったようなことがあっていいものだろうか。
不思議の音響
敬二少年は、もうすっかり目が冴《さ》えてしまった。寝ていても無駄なことだと思ったので、彼は寝床から起き出して、冷々《ひえびえ》した硝子《ガラス》窓に近づいた。月はいよいよ明《あきら》かに、中天《ちゅうてん》に光っていた。なぜ月は、あのように薄気味のわるい青い光を出すのだろう、どう考えたって、あれは墓場から抜け出して来たような色だ。さもなければ、爬虫類《はちゅうるい》の卵のようにも思える。敬二には、今夜の月がいつもとは違った、たいへん気味のわるいものに思えてくるのだった。
そのときだった。
ビビビーン。奇妙な音響が敬二の耳をうった。そう大きくない音だが、肉を切るような異様《いよう》に鋭い音だった。
「今時分、何の音だろう?」硝子窓の方に耳をちかづけてみると、その窓硝子がビビビーンと鳴っているのだった。
なぜ窓硝子は鳴るのだろう、彼はこれまでにこの窓硝子の鳴ったのを一度も聞いたことがなかった。だからたいへん不思議なことだった。だが窓硝子はひとりで鳴るはずがない。必ず何処かに、この窓硝
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