う」
山ノ内総監も、急に元気づいて、水久保係長の言葉に賛成したのだった。
それから一時間ほどして、いよいよ博士が東京ビルの崩れおちた前にあらわれた。博士は強い近眼鏡《きんがんきょう》をかけて、鼻の下から頤《あご》へかけてモジャモジャ髯《ひげ》を生やしていた。
「なるほど話に聞いたよりひどい光景じゃ」と博士は目をみはりながら、崩れたビルの土塊《どかい》を手にとりあげたりしていたが「これはなかなか強い道具で壊《こわ》したと見える」
「先生、強い道具でとおっしゃっても、それを見ていた人間の話によると、道具はおろか、現場《げんじょう》には犬一匹いなかったそうです」
「何をいうのだ。儂《わし》のいうことに間違いはないのじゃ。たしかに強い道具で、これを壊したにちがいない。やがてそれがハッキリするときが来るにきまっている」
「そうですかねえ。だがどうも変だなア。見ていた連中は、誰も彼も、いいあわしたように、傍《かたわら》には何にも見えないのに、ビルだけがボロボロ壊れていったといっているんだが……」
水久保係長には、博士のいうことがよく嚥《の》みこめなかった。
しばらくすると博士は、腰をのばして、
「この現場は、まあこれくらいで分ったようなものじゃ。では、今盛んに崩れているところを見たいから、案内して下さらんか」
「今崩れているところ?」係長は側をむいて警官隊に、今崩れているところがあるかどうかたずねた。
「さあ、只今そういうところはありません。今のところ、東京ビルだけで崩れるのは停ったようです」蟹寺博士はそれを聞いていたが、やがて首を大きく左右にふっていった。
「この事件は、崩れているところを見ないことには、なぜそんなことが起るか説明できないじゃろう。こんどそういうことがあったら、急いで知らせて下さいよ」博士は、そういいすててスタコラ帰っていった。
新聞記事
敬二少年は、その夜の異変を思いだしてはゾッとするのだった。
――空地の草原を上へおしあげてムクムクと現れた機械水雷のような大怪球! しかも一つならず二つも現れた。それがビビーンビビーンと互いにグルグル廻りながら、やがて煙のように消えてしまった。その怪球には、眼玉のような赤い光の窓がついていたが、それも見えなくなった。二つの大怪球はどこへ行ったのだろう。
――東京ビルがカチカチカチッと崩れはじめたの
前へ
次へ
全24ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング