頸飾り
モウパンサン
辻潤訳

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)希望《のぞみ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)折々|運命《なにか》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)エラエラ[#「エラエラ」に傍点]
−−

 その女というのは男好きのしそうなちょっと見奇麗な娘であった。このような娘は折々|運命《なにか》の間違いであまりかんばしくない家庭に生まれてくるものである。無論、持参金というようなものもなく、希望《のぞみ》など兎《う》の毛でついた程もなかった。まして金のある上流の紳士から眼をつけられて愛せられ、求婚されるというようなことは夢にもありはしない。とかくして、彼女はある官庁の小役人の処に嫁《ゆ》くこととなった。
 華美《はで》に衣飾ることなど出来ようはずがない。で彼女は仕方なく質素な服装《みなり》をしていた。けれど心中は常時《いつ》も不愉快で、自分がまさに行くべき位置《ところ》に行くことも出来ず、みすみす栄ない日々の生活を送らなければならないのかと真から身の不幸せを歎いていた。成程女は氏なくして玉の輿という、
次へ
全19ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
辻 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング