のだ、変遷《うつりかわり》の烈しいものだ! あのようなささいな物から、自分たちの運命が如何にも存在されるのだ!
ある日曜のことであった。彼女は一週の疲労《つかれ》を癒するためシャンゼ・リゼイの方へ散歩に出かけた。その時フト[#「フト」に傍点]小児《こども》を連れている女に逢った。それは忘れもせぬフオレスチャ夫人で、依然として若く美しく口元に微笑さえ湛えていた。
ロイゼルはなんとなく心を動かされた。今はもうまったく負債を消却した暁である、今までのことを打ち明けても差し支えはあるまい、そうだ、こう思いながら彼女は昔の友人の傍に立った。
「御機嫌よう」とまず言葉を掛けた。
一方の友人はこの見なれぬ粗末な服装の女にさも慣々しく言葉をかけられたので、一方ならず吃驚《びっくり》してあわてながら、
「あなたは!――私一向に存知ませんが、もしや人違いでは御座いませんか」
「否、私はあのロイゼルでございますよ、お見忘れですか?」
「オヤ、あなたが――あのマシルドさん、まあ大層御様子がお変わりになったこと! 一体如何なすったのです」
「ハイ、今まで私も随分と色々な苦労をいたしましたよ。これもそれも、
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