風狂私語
辻潤
▼自分は風狂人の一種だ。俳人なら惟然坊のような人間だ。ただ俳句がつくれないばかりだ。嘘のような話だが殆どつくったことがない。俳句ばかりか短歌もつくったことがない。どうもこんなことをいっても人は信用してくれないと思うが、自分ながら不思議だと考えている。
▼西谷がしきりと俳句をつくれといってすすめてくれる。昔、川崎にいた時分佐藤惣之助からもすすめられたことがある。「君が俳句をつくらないのはどうもおかしい」と彼がいうのである。だがやっぱりつくらなかった。今にひとりでにつくれるようになるかも知れない。
▼人間に「耳」の性と「眼」の性とがある。音楽家と画家とがその代表者だ。自分はつまり、「耳」の性だ。ただ音楽家でないばかりである。まれに両方兼備している天才もある。
▼文学者は芸術家としてみる時は一番不純である。音楽や画は表現のミディアムが限られているが、言葉になるとその数が殆ど無限であるから、ちょっと見当がつかぬ。
▼詩人、小説家、戯曲家――しかし、これは一見ハッキリしているようだが一向ハッキリはしていない。「詩」は一番芸術的だ。言葉の芸術家は詩人のみである。ところで、詩を作
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