――まるで自分の存在は自然や他人の恩恵の真中で辛うじて保たれているとしか思われない。けれど、かほどにまで周囲の恩恵を蒙むッている自分は果して幸福なのであろうか?――ところで、少しも幸福ではないのは何故であろう。一切が他人の恩恵から来る幸福で、決して自分が真に自分から要求して、獲得した幸福ではないからだ。なぜ土地は人の物で自分のものではないか? なぜ家は人の物で自分のものではないのか?――持てる人と持たざる自分とは人として果してどれ程の相異があるのか? なぜ他人が所有権を持って、自分にはそれがないのか――こんなことを漠然と考えてくると、僕はいい知れぬ不安に襲われて、又今更のように、この世に自分の安住の場所のないことを泌々と感じさせられるのである。それはお前に金というものがないからだ、と教えてくれる人がある。金はどうして得られるのか?――と訊ねると、それは働くことによって得られるといわれる。しかし、単に働くことによって、人は果してどれ程の金を獲ることが出来るであろうか?――そして働かないでは、どうして金を獲ることが出来ないであろうか?――働くとは抑々どういうことなのか?――
 自分は考える
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