るかも知れない。それが出来ない間は、いくら此の世にユウトピヤが実現されても、真の幸福を感じることは出来ないであろう。三分や四分や五分や六分や七分や、八分や九分の愛では、決して自分は満足することは出来ない。考えると自分という人間は自分の身分不相応な、なんという慾深い人間なのだろう――つまり、この地上では永久に出来そうもない、[#底本「。」を「、」に訂正]不可能な要求を勝手にしながら、そのために強いて自分を苦しめ苛んでいる不幸な妄想者といわれても、自分はそれに対して弁明することは出来そうもないのである。いっそ[#「いっそ」に傍点]真実の狂人になって世界中の女が悉く僕にその全部の愛を濺《そそ》いで生きているのだというような妄想を持ち得たら、自分はどれ程幸福になることが出来るだろう。――こんな空想をするだけでも、自分はなんとなく自分が少々それに接近しかけているのではないかとも考えられるのである。
それさえ出来たら、自分はどうやら世界中の人類を悉く愛し得られるように思う。又、如何なる労作も少しも苦痛でなく、喜んでなし得られるような気がする。一切の物が悉く他人の所有でも、決してそれを羨望するよう
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