いて有名になるということか? 社会運動に従事して、献身的に働くことが出来るということか?――なる程、それ等の慾望もそれぞれに容易に充たされることが出来、それに生き得られたら相応に自分は幸福を感じることが出来るであろう。しかし、自分の真に求めている幸福はそれ等の物が束になって来ても決して充たされないのである。それならばなにか? 一人の女性の全部の愛である。そして、自分もその一人の女性を自分の全部をあげて愛することである。それが出来さえしたら、その他の慾望はなに一ツ充たされないでも、自分は幸福に生き得られると思う。この考えをある友達に打ち明けたらそれは世の中で一番贅沢な要求だそうである。しかし、僕はそのゼイタク[#「ゼイタク」に傍点]を望むのである。それさえ出来れば僕は立ち所[#底本「立所」。読みにくいので『選集』により訂正]に幸福人になり得ると思う。それが満たされない限り、如何にその他の慾望が満たされても、それは決して自分を満足させることは出来ないと思う。僕はかかる異性を求めて、的のない流浪を続けようと思う。
僕は省みて自分がなに一ツ持たない人間だということを痛切に感じる。名誉も地位も
前へ
次へ
全16ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
辻 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング