瞬間、かれの耳にしている蛙の音楽と交流している。かつてオランダの放浪哲学者はわれ等が太陽の子孫であることを説いてきかせた。人間の故郷は太陽であるという説である。かつてわれわれは太陽中に棲息していたことがあったともいえるのである。しかし、太陽は果して吾人の中に現に存在しているのである。
人間の生活は本来は無目的な生命であった。非合目的な生命であった。なん等の方針方向なるもののない生命であった。
人間の意志にはふた通りある。生命意志と実行意志とである。前者は生活力であり、生物意志であり、植物や鉱物さえこれを持っている。後者は実行力がある、意志は決しておのれが本来目的として欲しないものを目的としない。かれが目的を立てる時は必ずやすでにかれは大|劫初《ごうしょ》からそれを目的とせねばならぬ様に運命づけられている。かれの目的とはただかれに与えられた運命の追認的ホンヤクであり、自己欺瞞である。
経験的には意志は価値によって導かれる。ゆえに価値は意志より原始的のものに見えるがそうでない。意志あってはじめて価値なるものは設定せられるのである。
2
価値は機制に付帯した副感情
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