をやたら生産し、金力と腕力を自慢にする他になに一ツ能がなく、他人の生活をやたら干渉し、自分の人生観がなく、弱い者を苛め、無知で厚顔で粗野で、数え立てればまことに言語道断である。
 野村隈畔君や有島武郎さんが心中した気持ちは察するにあまりがある。僕は不幸心中の相手がないので、ノメノメとダダイストになって臆面もなくノサバリかえっている。僕は自分の生き方がいいかわるい[#「いいかわるい」に傍点]かは知らないが、これ以外に今のところ生きるせんすべ[#「せんすべ」に傍点]を知らないのだ。
 野枝さんのおもいでを書くつもりであまり書けなかった。初めからあまり気が乗らなかったのだ。それに自分は発端から克明に物語る田舎者のような話し方は至極不得手だ。のみならずくる時の道はなるべく忘却することに努めている。努めずとも飲酒の習癖がひとりでに忘却させてくれる。楽しい過去なら努めて思い出しもしよう。
 未練がなかったなどとエラそうなことはいわない。だが周囲の状態がもう少しどうにかなッていたら、あの時僕らはお互いにみんなもッと気持ちをわるくせず、つまらぬ感情を乱費せずにすんだのでもあろう。
[#地から3字上げ](一九二三年十一月、四国Y港にて)



底本:「辻潤全集 第1巻」五月書房
   1982(昭和57)年4月15日発行
入力:田島曉雄
校正:松陽
1998年12月21日公開
2006年1月4日修正
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