ました。國許の父からはよく便りがありました。父は村の中の眺望《ながめ》の好い位置を擇んで小さな別莊を造つたとかで、母と共に新築の家の方へ移つたことや、その建物から見える遠近《をちこち》の山々、谷、林のさまなどを書いて寄《よこ》しました。其頃から漸く私も父へ宛てゝ手紙を書くやうに成りました。時には豐田の小父さんがニコ/\しながら私の机の側へ來まして、
『お父さんの許《とこ》へ奈樣《どん》な手紙を書いたか、お見せ。そんなことを隱すもんぢや無い。』
 と言ひますから、私が學校の作文でも書くやうに半紙に書きつけた手紙を出して見せますと、小父さんは笑つて、それを奧の方に居るお婆さんや姉さんのところへ持つて行つて讀んで聞かせたりなどしました。『むう、斯の手紙はなか/\好く出來た』なんて小父さんは私を勵ました後で、是處は斯う書けとか、彼處は彼樣《あゝ》直せとか言つて呉れました。道さん――ホラ、お文さんの直ぐ上の兄さん――からもめづらしく便りがありました。私は窓の下にその幼友達の手紙を展げて、何度も/\繰返し讀みました。二年あまり半分夢中で都會に暮して來た私の心は田舍々々した日のあたつた故郷の田圃側の
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