に切つた鐵葉《ブリキ》の片《きれ》に紐を着けまして、食事の度に私に掛けさせることにしたのです。
『御飯!』
といふ聲を聞くと、私は客があるか無いかを第一に思ひました。姉の家の人達は兎も角も、知らない客の前でブリキを自分の首に掛けるほどキマリの惡いことは有りませんでした。全く、ブリキの前垂には私も弱らせられました。でもその御蔭で、カチリと茶碗の音がする度に自分でも氣が着いて、着物を汚す癖は直つて行きました。
姉の夫といふは背の隆い、立派な威嚴のある人でした。國から出て來て、一時は大藏省の官吏にも成りました。斯の人と兄とは極く親しい間柄で、私のことも親身の弟のやうに見て呉れ、私のために數寄屋河岸にある小學校を選んで呉れました。斯の人は又、鷹揚に腮《あご》を撫でながら私を前に置いて論語の素讀を授けて呉れたり、閑暇《ひま》な時には東京の町々だの公園だのを見せに連れて歩いて呉れました。私は未だに斯の人が當時|流行《はや》つた獵虎《らつこ》の帽子を冠つた紳士らしい風采を覺えて居ます。それから觀兵式の日に連れられて行つて、初めて樽柿といふものを買つて宛行《あてが》はれたことなどを覺えて居ます。そ
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