れに續いて松薪だの松葉の焚附だのを積重ねた小屋が有りました。太助は裏山の方から獨りで左樣いふものを運んで來るのでした。その小屋の内で、一日薪を割る音をさせて居ることも有りました。
 小屋に面して古い池が有りました。棚の上の葡萄の葉は青く淀んだ水に映つて居りました。石垣のところには雪下《ゆきのした》などがあの目《ま》ばたきするやうな白い小さな花を見せて居りました。そこは一方の裏木戸へ續いて、その外に稻荷が祭つてあります。栗の樹が立つて居ます。栗の花が枝から垂下る時分には、銀さんが他の大きな子供と一緒にあの枝から栗蟲を捕つて來たものですが、それを踏み潰すと、緑色の血が流れます。栗蟲の身《からだ》から、銀さん達は強い糸の材料を取つて、魚を釣る道具に造りました。その原料を酢に浸して、小屋の前で細長い糸に引延して乾すところを、私はよく立つて見て居りました。栗の殼《いが》が又、大きく口を開《あ》く頃に成りますと、毎朝私達は裏の方へ馳附《かけつ》けて行つたものです。そして風に落された栗を拾はうとして、樹の下を探し※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]つたものです。それを人の知らない中に集
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