次第に、私は子供の世界に親しむようになった。よく見ればそこにも流行というものがあって、石蹴《いしけ》り、めんこ、剣玉《けんだま》、べい独楽《ごま》というふうに、あるものははやりあるものはすたれ、子供の喜ぶおもちゃの類までが時につれて移り変わりつつある。私はまた、二人《ふたり》の子供の性質の相違をも考えるようになった。正直で、根気《こんき》よくて、目をパチクリさせるような癖のあるところまで、なんとなく太郎は義理ある祖父《おじい》さんに似てきた。それに比べると次郎は、私の甥《おい》を思い出させるような人なつこいところと気象の鋭さとがあった。この弟のほうの子供は、宿屋の亭主《ていしゅ》でもだれでもやりこめるほどの理屈屋だった。
 盆が来て、みそ萩《はぎ》や酸漿《ほおづき》で精霊棚《しょうりょうだな》を飾るころには、私は子供らの母親の位牌《いはい》を旅の鞄《かばん》の中から取り出した。宿屋ずまいする私たちも門口《かどぐち》に出て、宿の人たちと一緒に麻幹《おがら》を焚《た》いた。私たちは順に迎え火の消えた跡をまたいだ。すると、次郎はみんなの見ている前で、
 「どれ三ちゃんや末ちゃんの分をもまた
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