嵐
島崎藤村
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)背丈《せたけ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一寸四|分《ぶ》ぐらいで
−−
子供らは古い時計のかかった茶の間に集まって、そこにある柱のそばへ各自の背丈《せたけ》を比べに行った。次郎の背《せい》の高くなったのにも驚く。家じゅうで、いちばん高い、あの子の頭はもう一寸四|分《ぶ》ぐらいで鴨居《かもい》にまで届きそうに見える。毎年の暮れに、郷里のほうから年取りに上京して、その時だけ私たちと一緒になる太郎よりも、次郎のほうが背はずっと高くなった。
茶の間の柱のそばは狭い廊下づたいに、玄関や台所への通い口になっていて、そこへ身長を計りに行くものは一人《ひとり》ずつその柱を背にして立たせられた。そんなに背延びしてはずるいと言い出すものがありもっと頭を平らにしてなどと言うものがあって、家じゅうのものがみんなで大騒ぎしながら、だれが何分《なんぶ》延びたというしるしを鉛筆で柱の上に記《しる》しつけて置いた。だれの戯れから始まったともなく、もう幾つとなく細い線が引かれて、その一つ一つには頭文
次へ
全82ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング