っていることもある。行くものはさっさと行け。それを半蔵はいろいろなことで娘に教えて見せていたし、お民はまたお民で、土蔵のなかにしまってある古い雛《ひな》まで娘に持たせてやりたいと言って、早くお粂の身を堅めさせ、自分も安心したいというよりほかの念慮も持たないのであった。
こういう時の半蔵夫婦の相談相手は、栄吉(半蔵の従兄《いとこ》)と清助とであった。例の囲炉裏ばたに続いた寛《くつろ》ぎの間《ま》にはそれらの人たちが集まって、嫁女の同伴人はだれとだれ、供の男はだれにするかなぞとの前もっての相談があった。妻籠の寿平次の言い草ではないが、娘が泣いてもなんでも皆で寄って祝ってしまえ、したく万端手落ちのないように取りはからえというのが、栄吉らの意見だった。
「半蔵さま、お粂さまの荷物はどうなさるなし。」
そんなことを言って、峠村の平兵衛も半蔵を見にやって来る。周旋奔走を得意にするこの平兵衛は、旧組頭の廃止になった今でも、峠のお頭《かしら》で通る。
「荷物か。荷物は式のある四、五日前に送り届ければいい。当日は混雑しないようにッて、先方から言って来た。荷回し人はおぼしめし次第だ、そんなことも言って
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