わせる。とかく物言いのたどたどしいあのお粂とても、彼女をこの世に育ててくれた周囲の人々に対する感謝を忘れるような娘でないことは、半蔵にもそれが感じられていた。それらの人々に対する彼女の愛情は平素のことがよくそれを語っていた。十八歳のその日まで、ただただ慈《いつく》しみをもって繞《めぐ》ってくれる周囲の人々の心を落胆させてこころよしとするような、そんな娘でないことは半蔵もよく知って、その点にかけては彼も娘に心を許していたのである。
今さら、朝鮮あたりの娘のことをここに引き合いに出すのもすこし突然ではあるが、両班《ヤンパン》という階級の娘の嫁に行く夜を見たという人の話にはこんなことがある。赤、青、黄の原色美しい綾衣《あやぎぬ》に、人形のように飾り立てられた彼女は、そこに生けるものとは思われなかったとか。飽くまで厚く塗り込められた白粉《おしろい》は、夜の光にむしろ青く、その目は固く眠って、その睫毛《まつげ》がいたずらに長いように思われたとか。彼女は全く歩行する能力をも失ったかのようにして人々の肩にかつがれ、輿《こし》に乗せられて生贄《いけにえ》を送るというふうに、親たちに泣かれて嫁《と
前へ
次へ
全489ページ中95ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング