《おやすみどころ》とした古い看板、あるものは青くあるものは茶色に諸|講中《こうじゅう》のしるしを染め出した下げ札、それらのものの軒にかかった新茶屋で、美濃から来たもの同志こんなことを語り合った。気まぐれな秋風は来て旧い街道を吹きぬけて行った。
 中津川をさして帰って行く景蔵にもその十曲峠の上で別れて、やがて勝重は新茶屋を出た。路傍の右側に立つ芭蕉《ばしょう》の句碑の前あたりには、石に腰掛け、猿《さる》を背中からおろして休んで行く旅の渡り者なぞもある。もはや木曾路経由で東京と京都の間を往復する普通の旅客も至ってすくなかったが、中央の交通路としてはこの深い森林地帯を貫く一筋道のほかにない。勝重は中のかやから、荒町の出はずれまで歩いて行って、飯田《いいだ》通いの塩の俵をつけた荷馬の群れに追いついた。
 その辺まで行くと、かなたの山腹に倚《よ》るこんもりとした杉《すぎ》の木立ちの光景が勝重の目の前にひらけて来る。万福寺はそこに隠れているのだ。本堂の屋根も杜《もり》のかげになって見ることはかなわなかったが、しかし彼は馬籠の村社|諏訪《すわ》分社のみすぼらしさに思い比べて、山腹に墳墓の地を抱《いだ
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