を見返らずには通り過ぎられないほど彼には親しみの深いものになっていた。
 半蔵乱心のうわさが美濃路の方へも知れて行った時、だれよりも先に馬籠へかけつけたのは勝重であったが、その後の半蔵が容体も心にかかって、また彼はこの道を踏んで来たのであった。その彼が峠の上の新茶屋で足を休めて行こうとするころはかれこれもう昼時分に近い。彼は茶屋の軒をくぐって、何か有り合わせのもので茶漬《ちゃづ》けを出してもらおうとすると、亭主《ていしゅ》が季節がらの老茸《ろうじ》でも焼こうと言っているところへ、ちょうど馬籠の方からやって来る中津川の浅見老人(半蔵の旧友、景蔵のこと)にあった。この人も半蔵の病んでいると聞くのに心を痛めて、久しぶりで馬籠旧本陣を訪《たず》ね来たその帰りがけであるとのこと。
 勝重は景蔵を茶屋に誘い入れて、さしむかいに腰掛けた。景蔵ももはや杖《つえ》をそこに置いて馬籠の方のことを語り出すほどの年配である。さすがに景蔵はあの木小屋のわびしいところに旧友を見る気にはなれなかったと言って、裏二階に住む青山の家の人たちに見舞いを言い入れ、病人の容体を尋ねるだけにとどめて来たという。そういう景蔵は中
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