》、池をおおう葡萄棚《ぶどうだな》、玉すだれや雪の下なぞの葉をたれる苔蒸《こけむ》した石垣《いしがき》から、熟した栗《くり》の落ちる西の木戸の外の稲荷の祠《ほこら》のあたりへかけて、かつて森夫や和助の遊び戯れた少年の日の姿をお粂の胸によび起こさないものはないくらいのところである。まったく外界との交渉を絶たれた父が閉じこもった座敷牢からつくづくときき入るのは、この古い池へ来る村雨《むらさめ》の音であろうかなぞと彼女は思いやった。彼女は木小屋の内にある中央の土間を通り抜けて裏口の方へも出て見た。そこに薄日のもれた竹藪《たけやぶ》は父の心をしずめるところを通り越して、北側の窓へおおいかぶさったような陰気なところだ。どうかするとはげしい風雨にねて木小屋の屋根板ぐらいははね飛ばすほどの力を持った青々とした竹の幹が近くにすくすくと群がり茂っているところだ。彼女はそこいらに落ち重なる竹の枯れ葉にも目をやって、父のいる座敷牢の南側の前まで引き返した。その時だ。半蔵は大きく紙に書いた一文字を出して、荒い格子越しにそれをお粂に示した。
「熊《くま》。」
現在の境涯をたとえて見せたその滑稽《こっけい》に、
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