半蔵がそのさびしい境涯《きょうがい》の中で、古歌なぞを紙の上に書きつけ、忍ぶにあまる昔の人の述懐を忍んでわずかに幽閉中の慰めとするようになったのも、その時からであった。お粂が伏見屋から分けてもらって来た紙の中には、めずらしいものもある。越前《えちぜん》産の大高檀紙《おおたかだんし》と呼ぶものである。先代伊之助あたりののこして置いて行ったものと見えて、ちょっとこの山家で手に入りそうもない品であるが、ほどのよい古びと共に、しぼの手ざわりとてもなかなかにゆかしい料紙である。半蔵は思うところをその紙の上に書きつけたのであった。
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以[#下]不[#レ]勝[#二]憂国之情[#一]濺[#二]慷慨之涙[#一]之士[#上]、
為[#二]発狂之人[#一]。豈其不[#レ]悲乎。無識人之
眼亦已甚矣。
[#ここから20字下げ]観斎
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 観斎とは、静の屋あるいは観山楼にちなんだ彼が晩年の号である。お粂の目には、父が筆のはこびにすこしの狂いも見いだされなかった。墨痕淋漓《ぼっこんりんり》としたその真剣さはかえって彼女の胸に迫った。
 お粂も実はそう長く馬籠にとどまれな
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