それがね、もうすこし模様を見ないと、おれにはなんとも言えん。ホイ、おれはこんなおもしろい格好で話ばかりしていて、まだ足も洗わなかった。お粂、お前はそこに腰掛けていておくれ。」
寿平次は勝手を知った休み茶屋の奥の方へ足を洗いに行った。やがて下駄《げた》ばきになって、お粂らのいるところへ戻《もど》って来て、
「やれやれ、おれもこれで活《い》き返ったというものだ。きょうは久しぶりで木曾の山猿《やまざる》に帰った。お前のお母《っか》さん(お民)もあれで痔持ちだが、このおれの清々《せいせい》したこころもちを分けてやりたいようだ。どうも痔持ちというやつは、自分ながらむつかしい顔ばかりしていて、養子(正己のこと)にはきらわれどおしさ。」
こんなことを言って戯れる寿平次も、お粂らと連れだって休み茶屋を離れるころはしんみりとした調子になる。その位置から寿平次の家族が住む妻籠の町まではまだ数町ほどの距離にある。大河の勢いで奥筋の方角から流れて来ている木曾川にも別れて、山や丘の多い地勢を次第に登るようになるのも、妻籠からである。
寿平次は言った。
「まったく、半蔵さんがあんなことになろうとはだれも思わ
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