、勝手を知った半蔵は庫裡《くり》の囲炉裏ばたの方から上がった。彼は松雲が禅僧らしい服装《みなり》でわざわざその囲炉裏ばたまで出て迎えてくれるのにもあった。やがて導かれて行ったところは住持の居間である。古い壁に達磨《だるま》の画像なぞのかかった方丈である。そこにはすでに招かれて来ている二、三の先着の客もある。旧|組頭《くみがしら》笹屋庄助《ささやしょうすけ》、それから小笹屋《こざさや》勝七の跡を相続した勝之助の手合いだ。馬籠町内でもことに半蔵には気に入りの人たちだ。こんな顔ぶれを集めての催しである上に、主人の松雲は相変わらずの温顔で、客に親疎を問わず、好悪《こうお》を選ばずと言ったふうの人だ。
 まず寺にも異状はない。そのことに、半蔵はやや心を安んじた。柿《かき》、栗《くり》、葡萄《ぶどう》、枝豆《えだまめ》、里芋《さといも》なぞと共に、大いさ三寸ぐらいの大団子《おおだんご》を三方《さんぼう》に盛り、尾花《おばな》や女郎花《おみなえし》の類《たぐい》を生けて、そして一夕を共に送ろうとするこんな風雅な席に招かれながら、どうして彼は滑稽《こっけい》な、しかもまじめな心配に息をはずませ、危害で
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