め》の村の子供。もはや旧《ふる》い街道へも六月下旬の午後の日のあたって来ているころである。
「さあ、いいものあげるから、おいで。」
 とまた半蔵が呼んでも、子供は輪回しの遊びに夢中な年ごろで、容易に彼の方へ飛んで来ようともしない。おもちゃというおもちゃは多く手造りにしたもので間に合わせる馬籠の子供のあいだには、桶《おけ》の箍《たが》を回して遊び戯れることがまた流行《はや》って来た。この子供も手に竹の輪をさげている。
「こんなに呼んでも、来ないところを見ると、あれは賢いものじゃないと見える。」
 この「賢いものじゃないと見える」が子供を釣《つ》った。子供は彼のそばへ走り寄った。その時、彼は自分の袂《たもと》に入れていた巴旦杏《はたんきょう》を取り出して、青い光沢のある色も甘そうに熟したやつを子供の手に握らせた。そして彼の隠宅の方へとその子供を連れて行った。
 こんな調子で、半蔵は『童蒙入学門《どうもうにゅうがくもん》』や『論語』なぞを読ませに村の子供らを誘い誘いした。その時になっても彼は無知な百姓の子供を相手にして、教えて倦《う》むことを知らなかった。普通教育の義務年限も定められずにある
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