出したものであった。農商務省まで持ち出して見た今度の嘆願も、結局は聞き届けられなかった。正己らは当局者の説諭を受けてむなしく引き下がって来た。その理由とするところは、以前の筑摩《ちくま》県時代に権中属《ごんちゅうぞく》としての本山盛徳が行なった失政は政府当局者もそれを認めないではないが、なにぶんにも旧尾州領時代からの長い紛争の続いた木曾山であり、全山三十八万町歩にもわたる名高い大森林地帯をいかに処分すべきかについては、実は政府においてもその方針を定めかねているところであるという。
 正己は言葉を改めて心機の一転を半蔵の前に語り出したのもその時であった。彼はこれまで人民が執り来たった請願の方法のむだであることを知って来たという。木曾山林支局を主管する官吏は衷心においてはあの本山盛徳が定めたような山林規則の過酷なのを知り、人民の盗伐にも苦しみ、前途百年の計を立てたいと欲しているが、ただ自分らを一平民に過ぎないとし、不平の徒として軽んじているのである。これは不信にもとづくことであろうから、よろしく適当な縁故を求めて彼らと友誼《ゆうぎ》を結び、それと親通するのが第一である。彼はそう考えて来たが
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