てに尽くす気になった。ひとりの閨《ねや》に夜ふけて目をさますおりおりなぞは、彼女は枕の上で旦那の物に誘われやすい気質を考えて、それを旦那の情のもろさというよりも、むしろ少年時代に早く生みの母親に死に別れたというその気の毒な生《お》い立ちにまで持って行って見ることもある。今の姑は武家育ちの教養に欠けたところのないような婦人で、琴もひけば、謡《うたい》もうたい、歌の話もするが、なにしろ尾州藩の宮谷家から先代菖助の後妻に来た鼻の隆《たか》い人で、その厳格さがかえって旦那を放縦《ほしいまま》な世界へと追いやったかと想《おも》って見ることもある。あるいはまた、妻としての彼女にもないものは、その旦那が生みの母親のふところかとも想《おも》って見ることもある。この世に一人しかない生みの母親のうつくしい俤《おもかげ》に立つものが、媚《こ》びを売る水商売の人たちの中なぞに見いだされようか。そんなことは、考えて見ただけでもばからしいことであった。けれども旦那の前で煙草《たばこ》をふかして見せる手つきのよかったというだけでも、旦那はもうそれらの女の方へ心を誘われて行くようである。一家をあげて東京から郷里へ引き
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