すべて靴《くつ》でも歩まれるように畳の上には敷き物を敷きつめ、玉座、および見晴らしのある西向きの廊下、玄関などは宮内省よりお持ち越しの調度で鋪設《ほせつ》することにしてあった。どこを内廷課の人たちの部屋に、どこを供進所に、またどこを内膳課の調理場にと思う[#「思う」は底本では「思ふ」]と、ただただ半蔵は恐縮するばかり。そのうちにお民も改まった顔つきで来て、彼の袖《そで》を引きながら一緒に裏二階の方にこもるべき時の迫ったことを告げた。
 継母おまんをはじめ、よめのお槇《まき》、下男佐吉、下女お徳らはいずれも着物を改めて、すでに裏の土蔵の前あたりに集まっていた。そこは井戸の方へ通う細道をへだてて、斜めに裏二階と向かい合った位置にある。土蔵の前に茂る柿《かき》の若葉は今をさかりの生気を呼吸している。その時は、馬籠の村でも各戸供奉の客人を引き受ける茶のしたくにいそがしいころであったが、そういう中でも麗《うるわ》しい龍顔を拝しに東の村はずれをさして出かけるものは多く、山口村からも飯田《いいだ》方面からも入り込んで来るものは街道の両側に群れ集まるころであった。しかし、青山の家のものとしては、とどこ
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