とを告げた。そのイギリス人はまた、彼の職業を通弁から聞いて、この先の村は馬を停《と》めるステーションのあるところかと尋ねる。彼は言葉も通じないから、先方で言おうとすることをどう解していいかわからなかったが、人馬|継立《つぎた》ての駅ならこの山間に十一か所あると答え、かつては彼もその駅長の一人であったことを告げた。
通弁を勤める男も慣れたものだ。異人の言葉を取り次ぐことも、旅の案内をすることも、すべて通弁がした。その男は外国人を連れて内地を旅することのまだまだ困難な時であることを半蔵に話し、人家の並んだ宿場風の町を通るごとに多勢ぞろぞろついて来るそのわずらわしさを訴えた。
「へえ、名物あんころ餅《もち》でございます。」
と言って休み茶屋の婆《ばあ》さんが手造りにしたやつを客の間へ配りに来た。唖《おし》の旅行者のような異人は通弁からその説明を聞いたぎり、試食しようともしなかった。
間もなく半蔵はこの御休処《おやすみどころ》とした看板のかかったところを出た。その日の泊まりと定めた福島にはいって懇意な旅籠屋《はたごや》に草鞋《わらじ》をぬいでからも、桟《かけはし》の方で初めて近く行って見
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