はまだ古《いにしえ》をあらわす道が残っていると考え、それを天の命とも考えて行った彼ではあるが、どうして彼は自ら思うことの十が一をも果たせなかった。維新以来、一切のものの建て直しとはまだまだ名ばかり、朝に晩に彼のたたずみながめた神社の回廊の前には石燈籠《いしどうろう》の立つ斎庭《ゆにわ》がひらけ、よく行った神門のそばには冬青《そよぎ》の赤い実をたれたのが目についたが、薄暗い過去はまだそんなところにも残って、彼の目の前に息づいているように見えた。
 四年あまりの旅の末には教部省の方針も移り変わって行った。おそらく祭政一致の行なわれがたいことを知った政府は、諸外国の例なぞに鑑《かんが》みて、政教分離の方針を執るに至ったのであろう。この現状に平らかでない神官は任意辞職を申しいでよとあって、全国大半の諸神官が一大交代も行なわれた。元来高山中教地は筑摩《ちくま》県の管轄区域であったが、たまたまそれが岐阜《ぎふ》県の管轄に改められる時を迎えて見ると、多くの神官は世襲で土着する僧侶とも違い、その境涯《きょうがい》に安穏な日も送れなかった。高山町にある神道事務支局から支給せらるる水無神社神官らが月給の割
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