使われる器械のような生活に屈伏して来たほどのものは、一人《ひとり》として新時代の楽しかれと願わぬはなかろう。宿場の廃止、本陣の廃止、問屋の廃止、御伝馬の廃止、宿人足の廃止、それから七里飛脚の廃止のあとにおいて、実際彼らが経験するものははたして何であったろうか。激しい神経衰弱にかかるものがある。強度に精神の沮喪《そそう》するものがある。種々《さまざま》な病を煩《わずら》うものがある。突然の死に襲われるものがある、驚かれることばかりであった。これはそもそも、長い街道生活の結果か。内には崩《くず》れ行く封建制度があり、外には東漸するヨーロッパ人の勢力があり、かくのごとき社会の大変態は、開闢《かいびゃく》以来いまだかつてないことだと言わるるほどの急激な渦《うず》の中にあった証拠なのか。張り詰めた神経と、肉身との過労によるのか。いずれとも、彼には言って見ることができない。過去を振り返ると、まるで夢のような気がするとは、同じ馬籠の宿役人仲間の一人が彼に話したことだ。彼は、その茫然《ぼうぜん》自失したような人の言葉の意味を聞き流せなかったことを覚えている。
これらのことを伊之助がしみじみ語り合いた
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