居の身となることを決心したのもその間であった。これは先代の吉左衛門が六十四歳まで馬籠の宿役人を勤め、それから家督を譲って、隠居したのに比べると二十年早い。また、先々代半六が六十六歳のおりの引退に比べると二十二年も早い。
 このさみしさ、あわただしさの中で、半蔵はすこしの暇でも見つけるごとに隣家の伏見屋へ走って行った。無事な伊之助の顔を見て、いろいろ世話になった礼を述べ、東京浅草左衛門町までの旅先で届けてもらった金子のことも言い、継母にはまたしかられるかもしれないが亡《な》き吉左衛門が彼にのこして行った本陣林のうちを割《さ》いてその返済方にあてたいと頼んだ。彼の長男があの年齢《とし》のうら若さで、はたしてやり切れるかどうかもおぼつかなくはあるが、お民も付いているし、それに自分はもはや古い青山の家に用のないような人間であるから、継母の言葉に従ったとも告げた。そして彼が伊之助にその話をして家に引き返して来て見ると、長いこと独身で働いていた下男の佐吉があかぎれだらけの大きな手をもみもみ彼の前へ来た。この男も、今度いよいよ長い暇《いとま》を告げ、隣村山口に帰り、嬶《かか》をもらって竈《かまど》を
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