いに打たれないものはなかった。中にも半蔵のために最も心を痛めたものは伏見屋の主人であったという話をも持って来た。
 平兵衛は言った。
「そりゃ、お前さま、何もわけを知らないものが聞いたら、たまげるわなし。」
「……」
「ほんとに、人のうわさにろくなことはあらすか。半蔵さまが気が違ったという評判よなし。お民さまなぞはそれを聞いた時は泣き出さっせる。皆のものが言うには、本陣の旦那はあんまり学問に凝らっせるで、まんざら世間の評判もうそではなからず、なんて――村じゃ、そのうわささ。そんなばかなことがあるもんかッて、お前さまの肩を持つものは、伏見屋の旦那ぐらいのものだった。まあ、おれも、今度出て来て見て、これで安心した。」
「……」


 飛騨を知らない半蔵が音に聞く嶮岨《けんそ》な加子母峠《かしもとうげ》の雪を想像し、美濃と飛騨との国境《くにざかい》の方にある深い山間の寂寞《せきばく》を想像して、冬期には行く人もないかと思ったほど途中の激寒を恐れたことは、平兵衛の上京でやや薄らぎもした。というのは、飛騨高山地方から美濃の中津川まで用|達《た》しに出て来た人があったとかで、伊之助は中津川でその人
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