切《ざんぎ》りの西洋ごしらえ、フランスじこみのマンテルにイギリスのチョッキを着け、しかもそれは柳原あたりの朝市で買い集めた洋服であり、時計はくさりばかりぶらさげて、外見をつくろおうとする男とある。おのれ一人が文明人という顔つきで、『世界|国尽《くにづくし》』などをちょっと口元ばかりのぞいて見た知識を振り回し、西洋のことならなんでも来いと言い触らすこまりものだともある。おもて華《はな》やかに、うらの貧しいこんな文明人はついそこいらの牛店にもすわり込んで、肉鍋と冷酒《ひやざけ》とを前に、気焔《きえん》をあげているという時だ。寄席《よせ》の高座で、芸人の口をついて出る流行唄《はやりうた》までが変わって、それがまた英語まじりでなければ納まらない世の中になって来た。「待つ夜の長き」では、もはや因循で旧弊な都々逸《どどいつ》の文句と言われる。どうしてもそれは「待つ夜のロング」と言わねばならない。「猫撫《ねこな》で声」というような文句ももはや眠たいとされるようになった。どうしてもそれは「キャット撫で声」と言わねば人を驚かさない。すべてこのたぐいだ。
 半蔵は腕を組んでしまって、渦巻《うずま》く世相を
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