町の方へ越して来ては。」
 それを勧めるための恭順が来訪であったのだ。この医者はなおも言葉をついで、
「そうすれば、わたしも話し相手ができていい。まあ、君|一人《ひとり》ぐらい居候《いそうろう》に置いたって、食わせるに困るようなことはしませんぜ。部屋《へや》も貸しますぜ。」
 恭順は真実を顔にあらわして言った。その言葉のはしにまじる冗談もなかなかに温《あたた》かい。同門のよしみとは言え、よっぽど半蔵もこの人に感謝してよかった。しかし、謹慎中の身として寄留先を変えることもどうかと思うと言って、彼は恭順のこころざしだけを受け、やはりこのままの仮寓《かぐう》を続けることにしたいと断わった。むなしい旅食は彼とても心苦しかったが、この滞在が長引くようならばと郷里の伏見屋伊之助のもとへ頼んでやったこともあり、それに今になって左衛門町の宿を去るには忍びなかった。


 十二月中旬まで半蔵は裁判所からの沙汰《さた》を待った。そのころにでもなったら裁断も言い渡されるだろうと心待ちに待っていたが、裁判所も繁務のためか、十二月下旬が来るころになってもまだ何の沙汰もない。
 東京の町々はすでに初雪を見る。もっ
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