橋外で御通輦を待ち受けた話をはじめた客がそこにある。客は当日の御道筋に人の出たことから、一人《ひとり》の直訴《じきそ》をしたもののあったことを言い出し、自身でその現場を目撃したわけではないが、往来《ゆきき》の人のうわさにそれを聞いて気狂いと思って逃げ帰ったという。思わず半蔵はハッとした。でも、彼は自分ながら不思議なくらいおちついたこころもちに帰って、まるで他人のことのように自分のうわさ話を聞きながら、床屋の亭主がするままに身を任せていた。親譲りの大きく肉厚《にくあつ》な本陣鼻から、耳の掃除《そうじ》までしてもらった。
何げなく半蔵は床屋を出た。上手《じょうず》な亭主が丁寧に逆剃《さかぞ》りまでしてくれてほとんどその剃刀を感じなかったほどの仕事を味わったあとで、いささか頬《ほお》は冷たいというふうに。
その足で半蔵は左衛門町の二階へ引き返して行った。静かな西向きの下窓がそこに彼を待っている。そこは彼が一夏の間、慣れない東京の暑さに苦しんで、よく涼しい風を入れに行ったところだ。部屋《へや》は南に開けて、その外が町の見える縁側になっているが、きれい好きな宿のかみさんは彼の入檻中に障子
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