について細い路地《ろじ》をぬければ、神田川のすぐそばへも出られる。こんな倉庫と物揚げ場との多いごちゃごちゃした界隈《かいわい》ではあるが、旧両国|広小路《ひろこうじ》辺へもそう遠くなく、割合に閑静で、しかも町の響きも聞こえて来るような土地柄は、多吉の性に適すると言っているところだ。
江戸の名ごりのような石榴口《ざくろぐち》の残った湯屋はこの町からほど遠くないところにある。朱塗りの漆戸《うるしど》、箔絵《はくえ》を描いた欄間《らんま》なぞの目につくその石榴口《ざくろぐち》をくぐり、狭い足がかりの板を踏んで、暗くはあるが、しかし暖かい湯気のこもった浴槽《よくそう》の中に身を浸した時は、ようやく半蔵も活《い》き返ったようになった。やがて、一風呂あびたあとのさっぱりした心持ちで、彼が多吉と共にまた同じ道を帰りかけるころは、そこいらはもう薄暗い。町ではチラチラ燈火《あかり》がつく。宿に戻《もど》って見ると、下座敷の行燈《あんどん》のかげに恭順が二人を待ちうけていた。
「金丸先生、今夜はお隅のやつが手打ち蕎麦《そば》をあげたいなんて、そんなことを申しています。青山さんの御相伴《ごしょうばん》に、
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