にできているからであった。多吉の俳諧三昧《はいかいざんまい》と、その放心さと来たら、かつて注文して置いた道具の催促に日ごろ自分の家へ出入りする道具屋|源兵衛《げんべえ》を訪ねるため向島《むこうじま》まで出向いた時、ふと途中の今戸《いまど》の渡しでその源兵衛と同じ舟に乗り合わせながら、「旦那《だんな》、どちらへ」と聞かれてもまだ目の前にその人がいるとは気づかなかったというほどだ。「旦那、その源兵衛はおれのことじゃありませんか」と言われて、はじめて気がついたというほどの人だ。お隅はこの亭主の気質をのみ込んでいる。場合によっては、彼女自身に夫の代理として、半蔵が身柄を引き取りに行こうと決心し、帯なぞ締め直して亭主の帰りを待っていた。はたして、多吉が屋外《そと》から戻《もど》って来た時は、お隅以上のあわてかたであった。
「お前さん、いずれこれにはわけのあることですよ。あの青山さんのことですもの、何か考えがあってしたことですよ。」
 お隅はそれを多吉に言って見せて、慣れない夫をそういう場所へ出してやるのを案じられると言う。背も高く体格も立派な多吉は首を振って、自身出頭すると言う。幸い半蔵の懇意に
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