んが、青山さんにかぎって悪い事をするような人じゃ決してございません。宅で本所《ほんじょ》の相生町《あいおいちょう》の方におりました時分に、あの人は江戸の道中奉行のお呼び出しで国から出てまいりまして、しばらく宅に置いてくれと申されたこともございました。そんな縁故で、今度もたよってまいりまして、つい先ごろまでは教部省の考証課という方に宅から通《かよ》っておりました。まあ、手前どもじゃ、あの人の平素《ふだん》の行ないもよくぞんじておりますが、それは正しい人でございます。」
 突然巡査の訪《たず》ねて来たことすら気になるというふうで、お隅は二階の客のためにこんな言いわけをした。それを聞くと、巡査はかみさんの言葉をさえぎって、ただ職掌がらこの通知を伝えるために来ただけのことを断わり、多吉なりその代理人なりが認印持参の上で早く本人を引き取れと告げて置いて、立ち去った。
 ともかくも半蔵が帰宅のかなうことを知って、さらに心配一つふえたように思うのはお隅である。というは、亭主多吉が町人の家に生まれた人のようでなく、世間に無頓着《むとんちゃく》で、巡査の言い置いて行ったような実際の事を運ぶには全く不向き
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