かせたもうたことを思い、官武一途はもとより庶民に至るまでおのおのその志を遂げよとの誓いを立てて多くのものと共に出発したもうたことを思い、御東行以来侍講としての平田鉄胤にも師事したもうた日のあることを思い、その帝がようやく御歳二十二、三のうら若さであることを思って、なんとなく涙が迫った。彼の腰には、宿を出る時にさして来た一本の新しい扇子がある。その扇面には自作の歌一首書きつけてある。それは人に示すためにしるしたものでもなかったが、深い草叢《くさむら》の中にある名もない民の一人《ひとり》でも、この国の前途を憂うる小さなこころざしにかけては、あえて人に劣らないとの思いが寄せてある。東漸するヨーロッパ人の氾濫《はんらん》を自分らの子孫のためにもこのままに放任すべき時ではなかろうとの意味のものである。その歌、
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蟹《かに》の穴ふせぎとめずは高堤《たかづつみ》やがてくゆべき時なからめや 半蔵
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この扇子を手にして、彼は御通輦を待ち受けた。
さらに三十分ほど待った。もはや町々を警《かた》めに来る近衛《このえ》騎兵の一隊が勇ましい馬蹄《ばて
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