れたことを知った。飛騨《ひだ》水無《みなし》神社の宮司に半蔵を推薦する話の出ているということをも知った。これはすべて不二麿が斡旋《あっせん》によるという。
恭順は言った。
「どうです、青山君、君も役不足かもしれないが、一つ飛騨の山の中へ出かけて行くことにしては。」
どうして役不足どころではない。それこそ半蔵にとっては、願ったりかなったりの話のように聞こえた。この飛騨行きについては、恭順はただ不二麿の話を取り次ぐだけの人だと言っているが、それでも半蔵のために心配して、飛騨の水無神社は思ったより寂しく不便なところにあるが、これは決して左遷の意味ではないから、その辺も誤解のないように半蔵によく伝えくれとの不二麿の話であったと語ったりした。
「いや、いろいろありがとうございました。」と半蔵は恭順の前に手をついて言った。「わたしもよく考えて見ます。その上で田中さんの方へ御返事します。」
「そう君に言ってもらうと、わたしもうれしい。時に、青山君、君におめにかけるものがある。」
と恭順は言いながら、黒く塗った艶消《つやけ》しの色も好ましい大きな文箱《ふばこ》を奥座敷の小襖《こぶすま》から取り出
前へ
次へ
全489ページ中180ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング