ところは、風狂を生命とする奇人伝中の人である。その寡欲《かよく》と、正直と、おまけに客を愛するかみさんの侠気《きょうき》とから、半蔵のような旅の者でもこの家を離れる気にならない。
この亭主《ていしゅ》に教えられて半蔵がおりおりあさりに行く古本屋が両国|薬研堀《やげんぼり》の花屋敷という界隈《かいわい》の方にある。そこにも変わり者の隠居がいて、江戸の時代から残った俳書、浮世草紙《うきよぞうし》から古いあずま錦絵《にしきえ》の類を店にそろえて置いている。半蔵は亭主多吉が蔵書の大部分もその隠居の店で求めたことを聞いて知っていた。そういう彼も旅で集めた書物はいろいろあって、その中の不用なものを売り払いたいと思い立ち、午後から薬研堀を訪《おとな》うつもりで多吉の家を出た。
偶然にも半蔵の足は古本屋まで行かないうちに懇意な医者の金丸恭順がもとに向いた。例の新乗物町という方へ訪《たず》ねて行って見ると、ちょうど恭順も病家の見回りから帰っている時で、よろこんで彼を迎えたばかりでなく、思いがけないことまでも彼の前に持ち出した。その時の恭順の話で、彼はあの田中不二麿が陰ながら自分のために心配していてく
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