こと国学に心を寄せるほどのものは恋をとがめないはずである。よい人は恋を許すが、そうでない人は恋をとがめるとは、あの宣長翁の書きのこしたものにも見える。
こんな話をしたあとで、
「いやはや、宣長翁も飛んだ濡衣《ぬれぎぬ》を着たものさね。」
恭順は大笑いして帰って行った。そのあとにはいくらか心の軽くなった半蔵が残った。「よい人は恋を許すが、そうでない人は恋をとがめる」とは恭順もよい言葉を彼のところに残して置いて行った。彼はそう思った。もし先輩が道化役者なら、それをおもしろがって見物する後輩の同僚は一層の道化役者ではなかろうかと。まったく、男の女にあう路は思いのほかの路で、へたな理屈にあてはまらない。この路ばかりは、どんな先輩にも過《あやま》ちのないとは言えないことであった。あながちに深く思いかえしても、なおしずめがたく、みずからの心にもしたがわない力に誘われて、よくない事とは知りながらなお忍ぶに忍ばれない場合は世に多い。あの彦麿が日記の中にあるというように、大平翁ほどの人がそんな情熱に身を任せたろうとは、彼には信じられもしなかったが、仮にそんな時代があって、蒸し暑く光の多い夏の夜なぞは
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