半蔵を助けて村の子供たちを教えているのもこの和尚だが、そういう仕事の上でかつていやな顔を彼に見せたこともない。しばらく半蔵はその日の来意を告げることを躊躇《ちゅうちょ》した。というのは、対坐《たいざ》する和尚の沈着な様子が容易にそれを切り出させないからであった。それに、彼はこの人が仏弟子《ぶつでし》ながら氏神をも粗末にしないで毎月|朔日《ついたち》十五日には荒町《あらまち》にある村社への参詣《さんけい》を怠らないことを知っていたし、とても憎むことのできないような善良な感じのする心の持ち主であることをも知っていたからで。
しかし、半蔵の思い立って来たことは種々《さまざま》な情実やこれまでの行きがかりにのみ拘泥《こうでい》すべきことではなかった。彼は伊之助と共に、筑摩《ちくま》県からの布告の趣意を和尚に告げ、青山小竹両家の改典のことを断わった。なお、これまで青山の家では忌日供物の料として年々|斎米《ときまい》二斗ずつを寺に納め来たったもので、それもこの際、廃止すべきところであるが、旧義を存して明年からは米一斗ずつを贈るとも付け添えた。この改典は廃仏を意味する。これはさすがの松雲をも驚かし
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