れるほど、彼も取り乱した日を送って来た。この彼が過去を清算し、もっと彼自身を新しくしたいとの願いから、ようやく起こし得た心というは、ほかでもない。それは平田篤胤没後の門人として、どこまでも国学者諸先輩を見失うまいとする心であった。
 半蔵も動いて来た。時にはこのまま村夫子《そんふうし》の身に甘んじて無学な百姓の子供たちを教えたいと思い、時にはこんな山の中に引き込んでいて旧《ふる》い宿場の運命をのみ見まもるべき世の中ではないと思い、是非胸中にたたかって、精神の動揺はやまない。多くの悲哀《かなしみ》が神に仕える人を起こすように、この世にはまだ古《いにしえ》をあらわす道が残っていると感づくのも、その彼であった。復古につまずいた平田篤胤没後の門人らがいずれも言い合わせたように古い神社へとこころざし、そこに進路を開拓しようとしていることも、いわれのあることのように彼には考えられて来た。松尾の大宮司となった師岡正胤《もろおかまさたね》、賀茂の少宮司となった暮田正香《くれたまさか》なぞを引き合いに出すまでもなく、伊那の谷にある同門の人たちの中にもその方向を取ろうとする有志のものはすくなくない。
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