の言葉にかえようとした。
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「尊翰《そんかん》拝見|仕《つかまつ》り候。小春の節に御座候ところ、御渾家《ごこんか》御|揃《そろ》い遊ばされ、ますます御機嫌《ごきげん》よく渡らせられ、恭賀たてまつり候。降《くだ》って弊宅異儀なく罷《まか》りあり候間、憚《はばか》りながら御放念下されたく候。陳《のぶ》れば、愚娘儀につき、先ごろ峠村の平兵衛参上いたさせ候ところ、重々ありがたき御厚情のほど、同人よりうけたまわり、まことにもって申すべき謝辞も御座なき次第、小生ら夫妻は申すに及ばず、老母ならびに近親のものまでも御懇情のほど数度説諭に及び候ところ、当人においても段々御慈悲をもって万端御配慮なし下され候儀、浅からず存じ入り、参上を否み候儀は毛頭これなく候えども、不了簡《ふりょうけん》の挙動、自業自悔《じごうじかい》、親類のほかは町内にても他人への面会は憚り多く、今もって隣家へ浴湯にも至り申さざるほどに御座候。右の次第、そのもとへ参り候儀、おおかた恥ずかしく、御家族様方を初め御親類衆様方へ対し奉り、女心の慚愧《ざんき》耐えがたき儀につき、なにぶんにも参上つかまつりかね候よし申しいで
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