しなんとも申し上げようも御座なく候。右につき、御契約の儀は縁なきこととおあきらめ下され、お解き下され候よう、尊公様より厚く御詫《おんわ》びを願いたく候。気随の娘、首切って御渡し申すべきか、いかようとも謝罪の儀は貴命に従い申すべく候。かねて御引き取りの御約束にこれあり候ことゆえ、定めて諸事御|支度《したく》あらせられ候ことと推察たてまつり、早速にもこの儀、人をもって申し上ぐべきはずに候えども、種々取り込みまかりあり、不本意ながらも今日まで延引相成り申し候。縁談の儀は旧好を続《つ》ぎ、親《しん》を厚うし候ことにて、双方よかれと存じ候事に候えども、当人種々娘ごころを案じめぐらせし上にもこれあり候か、了簡《りょうけん》違いつかまつり、いかんとも両親の心底にも任せがたく候間、この段厚く御海恕《ごかいじょ》なし下され候よう願い上げたてまつり候。遠からず人をもって御詫び申し上ぐべく候えども、まずまず尊公様までこの段申し上げ候。何卒《なにとぞ》、南殿村へはくれぐれも厚く御詫び下さるよう、小生よりは申し上ぐべき言葉も御座なく候。まずは右、御願いまで、かくのごとくに御座候。
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